作品
16. 嵐(ダンテ主寄り)
奏は手の中に預けられた小さなピラミッド。
ヤヒロノヒモロギを見つめ、どうしようもない感情に駆られた。
目の奥に、消えていった祐子の残像がちらつく。
ふつふつと湧き上がってきるのは、彼女への憤りだった。
(……先生、これが先生の望んだ結末なんですか?)
胸の内、問いかける。
氷川が祐子へと投げかけた言葉。
それは、奏の中にも燻っていたやりきれない疑問だ。
彼女は世界を憂いていた。
彼女の目には、内へ内へと沈み込み、羽ばたくことをやめてしまったかのように世界は見えたのかもしれない。
そしてその憂いを氷川に利用され、世界を受胎へと導いた。
祐子自身は、世界を滅ぼした罪を背負う覚悟をしていたようだが、結局のところ覚悟しきれていなかったのだろう。
だからこそ、彼女は奏を導くような発言をした。
だからこそ、彼女に理は説けなかった。
奏はそう思う。
そうして、今また。
奏にヤヒロノヒモロギを託し、消えていったのだ。
ここでこうして、受胎の結末を奏に委ねるくらいなら。
(……先生は、どうしてもとの世界を、そしてそこに暮らす私たちをもっと信じてくれなかったんですか……)
確かにいいことばかりではなかった。
彼女の目には世界が怠惰になる一方に映っていたのだから。
でも。
そんな世界にでも。
(夢を実現しようという人や、希望を信じて辛い現実を打ち破ろうとしていた人だっていたはずなのに)
きっと、たくさん、いたはずなのに。
それが悔しくて、奏は奥歯をきり……と噛み締める。
手の中のヤヒロノヒモロギ。
これを持って、アマラ神殿へ行けと……祐子は言った。
アマラ神殿に、これを奉納したら。
(……きっと始まるんだわ)
創世のための最後の戦い。
それがどんなものかは、わからない。
わかっているのは一つだけ。
奏は奏の信念を貫くため……たとえ理を持てぬ悪魔の身だとしても……袂を別ち変わり果てた友人たちと刃を交えることになる。
負かすのではなく、殺すのだ。
(……千晶、勇……)
思い浮かぶのはいつもの放課後。
三人で、他愛無い話をしながら帰った時間。
(この世界では強くなくちゃ、生きていけない。それは、私にもわかる。私もそうして、生きてきた。強いものが全てを制する、わかりやすい弱肉強食。でも……だからって、弱いものを認めない、排除するって言うのは……寂しいよ、千晶)
それは多分、奏の心に、弱いところがあるから。
祐子を見捨てられなかった、今もまだ友人たちとの別離を嘆き元に戻る術はないかと模索する……神となった千晶が切り捨ててしまった、人間の心が。
(……勇の言いたかったことも、わからないわけじゃないの。だって……)
奏は、黙り込んだ自分を気遣ってくれる仲魔たちの視線に思う。
受胎が起きて、ボルテクス界を彷徨う中で。
いつだって自分を助けてくれたのは、悪魔やマネカタ……人ならぬものたちばかり。
この地に存在していた人間は、みんな。
自分の要求を突きつけるだけ。
迷うことがいけないのだとでも言うように、奏の前から去ってしまった。
(人は一人……でも、だからこそ、一人では生きていけないっていうのが、私が辿り着いた結論だった)
マガタマの暴走によって、呪われた悪魔の血……魂が軋むような感覚に荒れ狂ったとき、他でもない静寂を求めたことも……
いずれの理も、奏には理解できる。
理解できるからこそ、唯一つだけの道として受け入れることはできなかった。
もうすぐ始まる、最後の戦い。
それを前に、奏の胸には様々な感情が渦巻き、嵐となって吹き荒れている。
この嵐はずっと、このボルテクスで目覚めたときから、人と悪魔、その狭間に位置する魂を揺さぶり続けてきた。
持て余すほどに強大になってしまったそれを解放すること。
そのための勇気を持つこと。
そうでなければ、理の神々を打ち破ることはできない。
これまでの道程で得た、自分の信念を貫くことは、出来ないのだから。
奏は深呼吸を一つして、仲魔たちを振り返る。
「アマラ神殿に行こう」
その言葉に、どれだけの決意が込められているのか。
知っている仲魔たちは、みんな力強く頷く。
奏は、彼らの顔を順繰りに見つめて……最後にぶつかった、青い瞳。
デビルハンターは精悍な顔に、相変わらずの挑発的な表情を浮かべて、小さく首肯する。
それでいい、とでも言うように。
まだ、ともすれば震えてしまいそうになる心。
しかし、仲魔たちの信頼と、ダンテの実に彼らしい励ましに背中を押された奏は。
まっすぐに顔を上げて、結末を迎えるための戦いへの一歩を踏み出した。
あとがき
何度プレイしても祐子先生には共感できないですね。
実はコトワリ別ならシジマルートしかプレイしてないんですよ。あとは復元EDかアマラEDかボルテクスED。
- 2012/02/15 (水) 05:35
- DDS3