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3/18発行 デビサバ2ヤマ主本サンプル

注意※回帰ルート大団円ED・主人公(天羽 薙)は復元前は男性。世界復元時に性別を女性として上書きがされた設定です。アップしたのはメインのお話の蛇足的後日談部分となります。年齢制限はありません。


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 薙の恋人は多忙である。
 国家を陰から支える霊的国防組織のトップなのだから忙しくないわけがないのだが、このままだと若くして過労死するんじゃないかと思うほどだ。
 本人はつらっとしており、薙がやきもきしているだけなのだけれど。
 ヤマト曰く、無理はしていないし、薙との関係のおかげか精神的にも以前より安定して、他者に頼ることを覚えたから大丈夫らしい。
 実際、薙との時間を割くために、マコトや信頼の置ける直属の部下に回せる仕事は回したりしているのだという。
 ジプス内では局長に何があったのかと一時騒然したと、ヤマトに引き合わせてもらって再会した(本人にその認識はないけれど)マコトに、こっそりと教えてもらった。
『皆は青天の霹靂か、天変地異の前触れかと驚いたけれど、私は良い傾向だと思う』
 などと礼まで言われた。
 大学卒業後にはジプスに入局するように奨められてもいて、ヤマトを支えられるならと検討中だ。
(あのワーカホリックは誰かが見張って手綱を取らないと)
 そう思う心が我ながらくすぐったい。
 視線の先に、こちらに向かって歩いてくる恋人の姿を見つけて我知らず笑顔になってしまう。
 薙とのデートの時は一般人と変わらぬ格好をしているけれど、やっぱり醸す雰囲気が同年代の青年とは一線を隔しているため人混みの中でも目立っていた。
 多忙な中、何とか時間をやりくりして、逢瀬を重ねる。 俗世から切り離された環境で育てられたヤマトは、当然『デート』というものを知らなかった。そんな彼にたこ焼きの味を教えた時みたいに庶民的な喜びや幸せを知ってほしい。未知の世界に触れ、ふとした瞬間に見せる年相応の表情をもっと見たかった。
 一度だけ聞いてみたことがある。
 薙としては良かれと思ってやっているのだが、一方的に連れ回されることになるヤマトは迷惑に感じていないのか、楽しんでくれているのかと。
 二人で過ごすための時間は、ヤマトにとっては貴重な休息の時間でもあるのだから。
『楽しいかと問われれば、よくわからないと答えるしかない。私には無縁の世界だったから。だが迷惑などと思ったことは一度もないぞ。薙が私のためにあれこれ考えてくれたのだと思うと嬉しいし、未知の世界が新鮮なことは確かだ。おまえとなら何度でも味わいたい』
 それがヤマトの答えで、声も表情もとても優しくて嬉しかった。
 彼を好きだと想う気持ち、大切にしたいと想う気持ちは日々募るばかりで果てがない。彼への気持ちを深めていくのに比例して、復元前の男であった自分と、書き換えられた今の女である自分の境目がなくなっていくような気がする。
 その証拠に。
「待ったか?」
「ううん」
「そうか……今日はスカートなんだな」
「変?」
「いや、よく似合っている。可愛い、というのはこういう気持ちか」
「…………ありがと」
 スカートを含む女らしい格好にも以前ほどの抵抗感、というか苦手意識はない。ヤマトとのデートの時に限るが、身につける機会も増えた。
 誉めてもらえると、少し気恥ずかしいけれど。
 町中での待ち合わせは久しぶりだ。
 多忙な恋人の都合に合わせて、迎えに来てもらって、そのまま車で目的地へ移動するのが殆どだ。
 もちろん車は運転手付きのジプス所有車である。
 今日は駅前で待ち合わせて、徒歩と電車で移動の予定。巷で話題となっている海洋生物をメインにしたドキュメンタリー映画を見て、ヤマトが手配してくれたホテルで一泊する。
 明日の午前中いっぱいまで休みを取れたというので、着るものにも気合いが入ってしまった。
 贅沢なデートになりそうで、今もウキウキしている。
 だから、これまでなんとなく躊躇っていたことを切り出した。
「……薙?」
 これまで肩を抱かれたり、腕を組んだりはしたことあったけれど、手を繋いだことは一度もなかった。
 手を繋ぐ、という行為が薙にはキスをするより気恥ずかしく思えたから。
 でも、今は試してみたいと思った。
 徒歩や電車だけで移動するなんて、恋人の立場を考えても滅多にないことだろう。
 手を差し出した薙に、ヤマトは戸惑った表情を向ける。
「手、繋いで行こ」
「手を、繋ぐ」
 鸚鵡返しのその物言いが気になった。
「……もしかしてヤマト、手を繋いだことないの?」
 自分とだけじゃなく、他の誰とも?
「ない」
 あっさりと肯定されて、初めは戸惑った。
 幼い頃に家族や友達と手を繋ぐなど誰でも経験していることだと思っていたから。
(……でも、ヤマトは違うんだ。それこそ生まれたときから峰津院の後継者たるべく育てられてきた)
 これまで誰とも手を繋いだことのない、それが当然の特殊な環境で育ったのだと、わかっていても胸が痛くなる
 言葉でしか伝わらないことがあるように、唇を重ねることでしか伝わらないことがあるように、肌と肌の触れ合いからでしか伝わらないことがあるように。
 手と手を繋ぐことでしか伝わらないことも、きっとあるはずだ。
「手、繋ごう、ヤマト」
 薙はそっと手を伸ばして互いの手のひらを重ね、指と指を絡め合わせる。
 俗に言う恋人繋ぎ、というやつだ。
 軽く力を込めて握ると、ヤマトの肩がぴくりと揺れた。「離した方がいい?」
 問いかけへの答えは、握り返さす力。
 少し汗ばんだ感触が愛おしくて。
 微笑んで見上げた先で、恋人の頬が微かに赤らんでいるのに気づいた。
(嘘……ヤマトが照れてる……)
 薙の視線に少しだけバツが悪そうな顔をしたけれど、その口元は柔らかく弧を描いていて……
 胸の奥が甘く疼く。
「……行こうか。映画間に合わなくなっちゃう」
「ああ」
 促す声が少し上擦ってしまったけれど、それはご愛敬。
 そうして二人は繋いだ手を離すことなく、駅に吸い込まれていく人混みの中に紛れていった。

  • 2012/03/16 (金) 20:38
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