作品
01 髪(フトミミ主)
束ねていた紐を解くと、長い黒髪がはらりと落ちた。
流れるように艶やかで、極上の絹糸みたいな、彼の髪。
奏はその髪を櫛で梳く。
髪に触れる、という行為はとても親密な関係の表れであるような気がして、最近のお気に入りだ。
もちろん、彼限定のことなのだけれど。
(こういう髪を、きっと鴉の濡れ羽色って言うのね)
手触りも良く、こしのある黒髪を梳りながら、うっとりと思う。
「ねぇ、フトミミさん」
奏にされるがままになっている男の名を呼んだ。
「なんだ?」
「フトミミさんの髪ってとても綺麗ね。私、大好き」
心からの言葉。
なのに男は軽く奏を振り仰ぐと、悪戯っぽく口を開いた。
「好きなのは、髪だけかね?」
くつり、と喉の奥で笑う。
その仕種に、奏の頬に朱が差した。
涙を流さない身体となったのに、こんな風な反応はするのだから悔しいやら、居た堪れないやら。
「んもぅ……そんなわけないでしょ。フトミミさんのことは魂まで全部好きよ」
魔性になった故か、奏は最近自分の心がただの人間であった頃よりも、ずっと正直に奔放になったような気がする。
だって。
以前だったら、そんな風に切れ返されてしまったら、紅くなってせいぜい睨みつけるぐらいが関の山だったと思うのに。
「その中でも髪の毛は特にお気に入りなの。だって、フトミミさんが、髪を解いたところを見せるのは私の前だけでしょう?特別な感じがして、すごく嬉しくなるんだもの。だから……」
言いながら、櫛を手に持ったまま背後から抱きついて。
「この姿は私だけにしか見せないでね。もし見せたら、許さないんだから。そんなことしたら契約主権限をフルに使って、誰も知らないどこかに閉じ込めちゃうよ」
甘い脅し文句を口にしながら、陶器のように滑らかな男の頬に、自分の頬を摺り寄せる。
「それは、こちらも同じことだ。君もこのような真似は、他の者には決してしてはいけないよ。でないと……」
首に回した腕を取られ、痛いくらいに噛み付かれた。
皮膚を噛み破られたのだろう。
甘い、血の香り。
奏の身体は、それを快楽として受け止める。
「契約主だろうと、嫉妬に狂って君を喰らってしまうに違いない」
そう言って男は喉の奥で低く笑ったようだった。
※
フトミミさんの種族は『鬼神』ということで。
その愛情はきっと『鬼』のそれに近いんだろうなと妄想してみました。
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