作品
03 耳(月森×香穂子)
HRを終えた香穂子は教室を出て、音楽科棟に向かった。
コンクールが終わって数週間。
最終的に入賞という成績を収めた香穂子は音楽科への転向も勧められたが、結局は普通科に残ることを選んだ。
もっともせっかくの才能を惜しんだ音楽科講師陣の説得により、週に何度か放課後に専門的な講義を受けることになったのだが。
大学は音楽科に進もうと思っているので、その申し出はありがたかった。
ヴァイオリンケースを片手に、講義の行われる教室に向う途中で香穂子はふと足を止める。
耳に馴染んだ優しい音が聞こえたから。
高く低く艶やかで、コンクールを経て深みを増した彼の音。
見事に歌う、ヴァイオリンの音色。
(……これって月森くんだ)
間違うはずなんてない。
世界で一番大好きな音を。
姿は見えないけれどこの近くで練習しているのだろうと思った。
一言声をかけていこうかと思ったけれど、止めた。
せっかくの旋律を中断させたくはないし、香穂子の講義が終われば正門で待ち合わせて、一緒に帰ることになっているから。
コンクールが、香穂子にもたらしたもの。
音楽と充実した毎日と……そして、恋人。
初対面時の印象は最悪に近かったけれど、まず初めに音に惹かれた。
圧倒的な技術と表現力。
その奥に、胸が詰まるような懊悩を隠していた月森の音。
歌わないヴァイオリン……越えられない壁、自身の音楽に足りない何かを模索し、持て余していた。
それこそが、香穂子の心に届いて。
気付いたら、月森の音だけでなく、彼自身にも強く惹かれていた。
その想いは、香穂子の音色となり……月森に届いた。
そうして二人は、コンクール最終日に想いを通わせ、現在に至る。
これから先、香穂子はいくつ物音に出会うだろう。
けれど、月森の音だけは聞き分けるに違いない。
埋もれることなく、この耳に届く。
しばらくの間香穂子は、月森の奏でる音楽に聞き入っていたけれど、気持ちを切り替えるみたいに深呼吸をしてその場から離れる。
今日弾いていた曲を、今度改めて月森に聞かせてもらおうと思いながら。
コルダで一押しのCPです。
コミックス版でも月森とくっついてくれたようでなにより。
タグ:[身体部位10のお題・そのいち]