作品
04 口唇(貴青・R18)
貴沙烙のくちびるには、きっと何か不思議な力が宿っているに違いない。
青樺は、恋人からつん、と顔を逸らせながらそう思った。
「青樺~、そんなに拗ねるなよ」
役者のような美声で言い募るのに、絆されては駄目だ……と、必死に自分に言い聞かせる。
「知るか、バカ」
「青樺~」
情けなく名を呼ぶのすら、聞き入ってしまいそうになるほど、貴沙烙の声は魅力的だ。
だが、今度という今度はそう簡単に許してはいけない。
いくら無礼講な酒宴の席でのこととはいえ、仮にも王の眼前で不埒な行為を働いたのだから。
周囲はまたか……と呆れていたし、王も笑っていたけれど、青樺の感じた羞恥といったらなかった。
貴沙烙と恋人同士になってから、これまでにも人目に憚らない行為に及ばれたことは、それこそ数えられないくらいで、多少のことには青樺も慣れたというか慣らされたのだけれど。
よりにも寄って王の御前で……いかにも育ちが良さそうで、おっとりとした優しげな青年王の顔を思い出すだけで、今でも顔から火を噴きそうになる。
恥ずかしくて居た堪れないやら、恋人の常識のなさに頭が痛いやら。
とにかく、今度という今度は簡単に許したりしない。
そう決心する端から、心が揺らぎそうになるそのわけは。
拗ねて悪態以外の口をきこうとしない青樺の心を宥めようとするみたいに、貴沙烙が先ほどから髪や頬、そして耳にくちづけを降らせてくるから。
優しく、甘い貴沙烙のくちづけ。
怒りを忘れて、それに流されてしまいたくなってしまうのは。
恋人のくちびるには、何か不思議な力が宿っているからだと、青樺には思えてならない。
けれど。
いかんいかんと、己を叱咤する。
そう簡単に絆されては意味がないのだから。
「なぁ、青樺、機嫌を直せよ」
言いながら、そっぽを向いた首筋にくちづけてくるのに、青樺は邪険に貴沙烙の頭をはたいてやる。
痛いじゃないか……、ぶつぶつと文句を言うくちびる。
性懲りもなく身を寄せてくる恋人に、いつまで青樺が絆されずにいられるかは、時間の問題だった。
※
口の上手い恋人には敵いません(笑)。
頑張れ、青樺。
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