作品
07 背中(史青・R18)
史鋭慶が月を眺めている。
その背中を見つめながら、青樺は切ない想いを噛み締めた。
彼が皓々と夜空を照らす月に、誰を思い重ねているのかわかっていたから。
西域を目指して、旅の途にある史鋭慶の大切な幼馴染。
悪意を読むという異能の力に苦しんできた彼の心の支えだった皇子のことを案じているのだ。
かの地は遠く、身分を決して悟られぬように旅することは容易ではない。
細心の注意を払ってなお、国外に出るまでが一苦労だろう。
ましてや、皇子は生まれつき身体が弱いのだと聞いた。
心配しないほうがおかしい。
理性では、そうわかっている。
皇子と共に行くことも出来たのに、この屋敷に戻ってきてくれたのは、青樺を選んでくれたからだということも。
ちゃんとわかってる。
頭では納得している。
けれど。
感情はそうはいかなかった。
史鋭慶にとって、皇子がどれだけ大切な人であるか、身に染みて知っているだけに。
こんな風に、真摯にそしてどこか哀しそうに、かの人を案じている恋人を見ていると。
今からでも、追いかけていくのではないかと。
青樺を置いて、行ってしまうのではないかと。
そんな不安が、足元から這い寄ってくるのだ。
どれだけ肌を重ねても。
思考が溶けてしまうまで閨の中で愛されても。
拭いきることが出来ない。
史鋭慶を信じていないわけではない。
ただ、青樺は……信じるより深く、彼を愛してしまったから。
いつのまにか。
まるで、それが当たり前みたいに。
だから、不安になる。
だから、切なくてたまらない。
(……知らなかったんだ。自分がこんなに嫉妬深いだなんて……)
青樺のことなど忘れてしまったかのような恋人の背中。
見ているのが辛くて、手を伸ばした。
「…………どうした?」
広い背中に額を押し付け、なんでもないと首を振る。
この気持ちを言葉にするなんてできなかったから。
前に回した青樺の手を、史鋭慶の手が包み込む。
そのぬくもりに少しだけほっとしながらも。
(皇子のことを思うなとは言わない。だから……どこにも行かないでくれ。他の誰でもない、俺だけの史鋭慶でいてくれ……)
胸の内何度も、繰り返し、祈りながら。
青樺は瞼をぎゅっと閉じて、恋人の背中に全てを委ねるみたいに頬を寄せた。
※
何度も言いますが史青は青樺→史鋭慶の構図が好きです。
ラブラブであっても青樺はいつも皇子に嫉妬していればいい。
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