作品
09 腕(暫青・R18)
李暫嶺は、不意に目が覚めた。
夜はまだ明けていないようだが……と、閉じていた瞼を開け、薄物の帳の向こうに見える窓の外を窺おうとして、身動きが取れないことに気付き、その原因に視線を向ける。
刺客として生きてきた李暫嶺には、暁闇も意味はない。
夜目が利くことを感謝しつつ、無防備な寝顔を晒す恋人に唇の端を閃かせた。
視線の先で、青樺がくうくうと心地好さげに寝息を立てている。
二十歳を越えた青年とは思えない、稚い寝顔は李暫嶺の心に温かいものをもたらした。
身動きが取れないわけは、青樺の腕。
まるで、どこにも行くな……とでも言いだけに、李暫嶺の身体に回されている。
こんなふうに自分以外の誰かが隣にいて、熟睡したことなど里にいた頃でさえなかったことだと思い出す。
職業柄どこにいても気は抜けず、緊張の連続で。
たまに女と閨を共にしたときでも、否、そんなときだからこそ余計に神経を研ぎ澄ませていた気がする。
仕事を終え、里の自宅に戻っても。
李暫嶺に安らかな眠りが訪れることはなかった。
青樺に出会うまでは。
無論今でも殺気や、ただならぬ気配には敏感だが、そう言った本能に染み付いた感覚とは別に、常に神経を尖らせる必要がなくなったとでも言うべきか。
青樺に出会って、彼を得て。
李暫嶺は、生まれて初めて安らぎというものを知った。
自分以外の誰かに、全てを許すことの至福を。
それを噛み締めるたびに、青樺への愛しさが湧き上がり、その衝動のまま、李暫嶺は眠る恋人を起こさぬようにそっと彼の髪に唇を落とすと、青樺の方に向き直り、腕の中にすっぽりと収まる身体を抱き寄せる。
そうして、愛しいものを腕に抱き、幸福感と安堵を胸に李暫嶺は再び訪れた睡魔の手に意識を委ねたのだった。
※
元暗殺者という設定は萌え心を擽りますね。
大切なものはたくさんある李暫嶺だけど、心を癒し安らぐことのできる存在は青樺だけだと思うのです。
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