作品
07 指(シキアキED1・R18)
外から戻ったアキラは、思っていたよりも室内の温度が低いことに眉を顰めた。
陽気は春めいてきたとは言え、分厚いカーテンに閉ざされ、コンクリートが打ちっぱなしの部屋では外気より寒く感じるのも当然か。
アキラが部屋を空けていた時間は一時間にも満たないが、オンボロで気休め程度にしかならなくても、ストーブを焚いてから出るべきだった。
迂闊さに舌打ちしながら、小さなルームランプをつけると、慌ててストーブに火を入れる。
「ゴメンな、シキ」
一人、この部屋に残っていたシキに謝罪の言葉をかけたけれど反応はない。
彼自身は寒さなど知覚していないのだろう。
人形のようになってしまったシキには、寒暖など無意味だから。
けれど、だからこそ、アキラが気をつけなければいけなかったのに。
シキの意識には届いていなくても、生身の身体に影響が出ないわけではないのだ。
車椅子を押して、ストーブの近くに移動させ、念の為と羽織らせていた毛布を、かけなおす。
我ながら、まるで母親のようだと思いながら、アキラは小さく笑った。
もちろん、アキラはシキの母親ではない。
かと言って、父親や兄弟もなければ、友人でもない。
ましてや、恋人などという響きはもっとも縁遠い。
自分たちの関係は、いったいなんと呼べばいいのだろう。
ふと、そんなことを思った。
今のシキは、アキラの手がなくては生きていくことが出来ない。
それを本人が望んでいるかどうかはわからないが、アキラはシキに生きていて欲しいと願っている。
だからこうして傍にいる。
届きそうで届かない関係、とでも言えばいいのか。
一番相応しい言葉を当てはめるなら、『道連れ』というのが最も近いような気がした。
(アンタには迷惑かもしれないけど……俺は、いまを幸せだと思うよ……)
膝の上に置かれた手を取り、すっかり冷えてしまった指先を温めるようにしてアキラは自分の手の中に包み込んだ。
長くて綺麗な指、アキラより一回りは大きいシキの手は、もう二度と刀を握ることはないだろう。
シキが刀を揮う姿は、凛として美しかった。
いまも瞼の裏に焼き付いている光景。
それを思い出すと、切なくも想うし、寂しくも想う。
と、同時に嬉しくも想っている自分がいる。
シキはもう、戦わなくていい。
戦いに明け暮れ殺伐とした人生を送ってきた彼の、初めて得た安息ではないかと……そう思うから。
それはアキラの思い込みで、自己満足かもしれなくとも、シキが辿り着いた穏やかな日々をこの身体を剣に、魂を盾にして必ず守るから。
だから、もう。
「アンタは、戦わなくていい……ゆっくりまどろんでいて、いいんだよ」
アキラは、虚ろな紅い瞳に微笑みかける。
そうして、温もり始めた指先に、そっと唇を押し当てた。
※
ED1のシキアキは純愛であるし、ある意味無償の愛であると言ってもいいと思う。初めて見たときはショックだったけど、何度か見返すうちにこれも一つのハッピーエンドなんだと思えるようになりました。シキは二度と武器を手にすることはないかもしれないし、いつかの日にかアキラの献身が届いて復活するかもしれない。カプ的には後者であって欲しいけど、一つの物語として見たときはどちらでもいいと思っています。
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