作品
10 心臓(シキアキED2・R18)
ノックの音に、シキは目を通していた書類から顔を上げた。
「入れ」
入室を許可すると、重厚な造りの扉が『失礼します』という言葉と共に開く。
姿を確認するまでもない。
シキがこの書斎に入室を許したのは、たった一人しかいないのだから。
「総帥、こちらの書類に決済をお願いいたします」
「わかった……アキラ」
腹心とも言える青年の名を呼び、傍らに来るように促す。
アキラは、書斎机の上に手に持っていた書類を置いてから、回り込んでシキの隣へとやってきた。
彼の気配を間近に感じて、シキも手にしていた書類を机上に乗せ、椅子を回転させる。
見上げたアキラの瞳に、出会った当初にあった自分への反発はない。
あるのは無心に向けられる信頼と忠誠。
それを心地好く受け止めて、シキは目を眇めた。
シキの片腕である彼に憧憬の眼差しを向けるものは多い。
なかには、あからさまに不埒な下心を抱く者もいるようだ。
きっちりと着込んだ闇色の制服は、アキラのストイックな容貌を際立たせ、だからこそ淫靡に映る。
その顔を快楽に歪ませ、思う様啼かせてみたい。
理解できる衝動だ。
美しく咲いた花。
その芳しく甘い蜜を吸おうと虫どもが寄ってくるのは自然の摂理。
もっとも、それを実行しようというものは少ない。
第一にアキラ自身にその隙がない。
彼の全身全霊は、シキにのみ傾けられており、向けられる秋波をことごとく跳ね返している。
第二に総帥の寵愛を受けているものに手を出そうという不心得者には、地獄が待っていることを皆知っている。
そう。
それこそ、死んだ方がましだと思える地獄が。
許容範囲を超えてまとわりつくハエは、容赦なく叩き落す。
シキは唇の端を閃かせると、傍らに立つアキラの腰に腕を回し、膝の上に抱き寄せた。
「総帥」
アキラが困ったような、戸惑ったような声で呼びかける。
その唇を指の腹で塞いだ。
「無粋な呼び方をするな」
悪戯でも持ちかけるかのように命じる。
すると彼は、シキの前でしか見せない、どこか蠱惑的な表情で……
「…………シキ」
囁くように、そう呼んだ。
名前とともに吐き出されたと息が指先をくすぐった。
今ではもう、アキラしか呼ばない名前。
全てを捧げた代価に、シキが彼にだけそう呼ぶことを許した。
シキにとってアキラは、それだけの価値がある唯一の存在。
しゅるりとネクタイを解かれ、隙なく着込んだ制服を乱されても一切抵抗はしない。
ボタンを外されて、露わになった肌の色を知るのは自分だけ。
そう思うとひどく満たされた気持ちになる。
実際、アキラはシキしか知らない。
これから先も知ることはない。
甘い肌に舌を這わせると、腕の中の身体が小さく震えた。
「アキラ……おまえは、誰のものだ?」
「シキのものだ。俺は貴方だけのもの……俺の全ては、貴方のためだけにある」
迷いのない答えに、シキは満足げに頷き、彼の胸に唇を押し付ける。
ちょうど心臓の真上の位置。
唇に、とくとくと脈打つ心臓の鼓動が直接伝わってきた。
きつく吸い上げて、所有の証を施す。
耳元で、アキラの……堪らないとでも言いたげな吐息が聞こえて、シキの征服欲に火が付いた。
広すぎる書斎机はこういうときに役に立つ。
机の上に、アキラの身体を押し倒す。
やはり抵抗はなく、背中に腕を回してきた。
従順で可愛いシキの下僕。
手放すことは決してない。
視界の隅に、先ほどまで目を通していた書類が映った。
それは軍規を乱したという理由で処分された者の報告が書かれている。
自らの分を弁えず、愚を冒そうとしたハエの末路が……
シキはそれを一瞥すると、すぐに興味を失ったように、アキラの身体を苛むことへと没頭していった。
※
総帥は美人秘書にメロメロなんですよ(真顔)。
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