作品
5,寸止め(ライコノ・R18)
大きな仕事を一つ終えて、ギルド総本部へ報奨金への換金のために藍閃に戻る道すがら、とっぷりと陽の月が暮れたこともあって、森の中で野宿をすることにした。
賞金首と対峙するまでの数日、アジトと狙いを付けた場所を張り込み、緊張状態が続いていた反動だろう。
みちしるべの葉の灯りに隣り合う二匹の空気はどこか寛いでいた。
木の実で腹を膨らませて、コノエは久しぶりにじっくりと毛繕いに勤しむか……と手甲を外そうとしたのだが。
その手首をつがいの手がそっと押さえ込んできた。
何かと思ってそちらを見やり。
コノエは無意識に耳をピンと立て、尾を毛羽立たせる。
ライの瞳……美しい淡青色の隻眼に、ある種の危機感を抱かせる光が明滅していたのだ。
そしてそれは的中する。
「……時間が空いたからな」
なんの、とは問いただしたくない。
思わず逃げを打とうとした身体を、抗いを許さない強い力に、ぐっと抱き寄せられてしまう。
「なぜ逃げる?毛繕いをしてやるだけだ」
嘘だ。
絶対それだけじゃ終わらないに決まっている。
コノエはそのことを学びたくもなかったのに、経験上学ばされていた。
そんな思いを込めて睨みつけても、倣岸不遜なコノエの闘牙は涼しい顔だ。
あまつさえ。
「ああ、それ以上のことを期待しているのか?」
などと意地悪く聞いてくる。
「なっ……そんなわけあるかっ」
ふーっと毛を逆立ててコノエは抗議した。
ぬくもりを分かち合うのは嫌じゃないけれど。
でも、外での交尾は……できれば避けたい。
これまでに何度も、流されてコトに至っただけに切実だ。
ただでさえ、恥ずかしくて、居た堪れないのに。
野外での行為はいつも以上にその感情を掻き立てるから。
そう訴えてみても、ライが聞いてくれた例はない。
ただ『本当に嫌なら、力づくででも撥ね退ければいい』と言うだけだ。
本等にズルイ、といつも思う。
最愛の存在に求められて、心から拒むなどできようはずがない。
それがわかっているからライはズルイのだ。
「ライっ」
名を呼んで、ぱしぱしと尾でつがいの腕を叩いてみても無駄。
近づいてくる端整な顔。
熱っぽさを宿した冷たい色の瞳に見つめられて、コノエはぎゅっと目を閉じた。
そうして訪れるはずのくちづけに備えたのだが……いつまで経っても唇に触れてくる気配はない。不思議に思って、そろそろと目を開けた先。
「!!」
じっとこちらを伺うライの愉しそうな眼差しとぶつかった。
キスをすると見せかけて、寸止めでコノエの反応を伺うなんて性格が悪すぎる。
「抵抗らしい抵抗もせず目を閉じるなど……くちづけをして欲しくてせがんでいるも同然だ、馬鹿猫」
くつくつと笑いながら、愛しささえ滲ませる口調でからかわれて、コノエは顔を真っ赤に染め上げながら内心で地団駄を踏む。
「アンタ、最低だっ」
叫んだところで、恥じらいゆえの負け惜しみであることは明白。
本当になんだってこんなに意地悪な猫がいいんだろう。
こちらの反応に満足したのか喉を鳴らしながら改めて顔を寄せてくる連れ合いの唇に、コノエはせめてもの意趣返しと噛み付いてやったのだった。
※
攻めのセクハラ行為は愛情表現だと思うんだ。
結局、なんだよ恋人同士でイチャイチャしてるだけだろ……的な。そういうじゃれあい大好物。
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