作品
10,どちらからともなく(沖千)
「終わりましたよ、総司さん」
千鶴はそう言って沖田に手鏡を渡した。
「うん。ありがとう、千鶴」
切り揃えたばかりの髪を満足そうに見る夫を横目に、手早く床に散らばった残骸を掃除する。
千鶴の故郷でもある雪村の里に落ち着いて数ヶ月。
伸びてきた髪がうざったいのか、整えてくれと頼まれて櫛と剃刀を手に目立って長くなった箇所を削ぎ落としたのだが。
「もう、伸ばされないんですか?」
隊服を洋装に改めるのを期に、ほかの隊士同様に断髪した沖田だが、今はもう和服でいることの方が多い。
昔のように伸ばして結っても違和感はないだろうに。
千鶴の質問に沖田は小さく笑いながら、手鏡を返してきた。
「一度短くしたら、こっちの方が楽だからね。もうこのままでいこうと思うよ。それとも千鶴は伸ばしてた方がいい?」
「どちらでも……どちらも総司さんにはよく似合ってますから」
「ふふ……嬉しいことを言ってくれるね」
ごろごろと喉を鳴らす猫のように機嫌良く目を細める表情がとても好きだと思う。
愛しい相手を喜ばせることができたのが嬉しくて、千鶴も唇を綻ばせた。
「それに……ねえ、千鶴には教えたよね。前の髪型は、近藤さんの真似だって」
それはまだ京にいた頃。
二人の間にあった距離が、ほんの少し縮んだと思えた出来事で、もちろん忘れていない。
沖田が近藤のことを本当に慕っているのが伝わってきて、微笑ましくも思ったものだ。
「はい、覚えています」
「今ももちろん近藤さんのことは尊敬してるし、大好きだけど……もう、あの人の背中を追いかけることはないから。あの人の真似は止めた。近藤さんの背中を追うんじゃなくて、自分の道を行くっていう決意表明っていうと大げさかもしれないけど、そういう意味を込めてもう髪は伸ばさないことに決めたんだ。最初に髪を切ってくれたのは千鶴だしね。その君と一緒に、これからの未来を歩きたいから」
語る言葉も、千鶴を見つめる眼差しも胸がぎゅっとするほど優しくて。
ひたひたと湧き上がるこの気持ちは言葉になんてとてもできないから、千鶴も想いを込めて愛しい相手を見つめた。
そうしてどちらからともなく顔を寄せあい、重なる唇に全てを託したのだった。
※
黎明録をプレイしてほとほと思ったのは薄桜鬼本編における序盤の沖田はあれでほんとにちゃんと千鶴を女の子扱いしてたんだなぁ、と(笑)。それがだんだん好きな子苛めに発展していくのを思うと微笑ましい。結ばれた後も沖田には、そうした一面は失って欲しくないな。あと近藤さんに傾倒していく過程も知ることが出来たのは良かった。それから、彼の最期がどんなものであったのか沖田のルートではありませんが、見ることが出来たのも。近藤がいたから、沖田は剣として生きることにした。千鶴と出会って彼女と結ばれたから余生を人として生き直すことにした……そう思うととても感慨深いのです。
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