作品
01 指を絡めて、寄り添って(遥か3十六夜記・銀×望美)
現代へ帰還する日を数日後に控えた昼下がり。
望美は傷もすっかり癒えた銀を伴って散策に出かけることにした。
平泉の景色を見られるのはあと少しだけのこと。
そう思うと感慨も深まる。
あまりにもいろんなことがありすぎたためだろううか。
郷愁にも似た切なさが胸を塞ぎそうになって、望美は努めて明るく銀に声をかけた。
「ねぇ、銀」
「はい、神子様」
「あちらでの生活は一切心配するなって白龍は太鼓判を押してくれたし、もちろんそれを信じているんだけど不安はない?」
時空を超えることの大変さを知る身の上だけに望美はそれが気がかりだ。
自分のときは同じ境遇の譲とすぐに合流できたし、朔や白龍たちが打ち解けてくれ、何くれとなく親身になってくれたおかげでカルチャーショックもホームシックもさほどでなく馴染むことが出来たけれど銀は本当に身一つなのだから。
心から案じての言葉に、銀はうっとりするような笑みで応えた。
「神子様はお優しい方ですね。このような私を案じてくださる」
「……………」
当たり前だ、という返答は飲み込まれる。
銀に対してはいつもそうだ。生来の勝気は形を潜め、歯の浮くような台詞にも照れ隠しの意地も張れなければ、平然と受け流すことも出来ない。
真摯な眼差しと甘い笑顔にただ、ただ言葉を失って赤面するだけ。
今もきっと羞恥で頬が赤くなっていることだろう。
それをみとめた銀は、また一段と深い笑みをその顔に浮かべる。
恋人の表情にむっとしたのか、恥ずかしくて居た堪れないのか望美は自分でもわからなくなりながら、ぷいっとそっぽを向いた。
その瞬間。
長い髪が、枝に引っかかってしまう。
慌てて解こうと伸ばした指を、銀の手がそっと押し留めた。
「私が……」
そう言って千切れたりしないよう、丁寧に絡まった髪を解しにかかる。
銀の仕種があまりにも愛しそうだったから、望美は見ていられなくなって俯いた。
髪を触られるというのが、こんなに恥ずかしいとは。
高鳴る一方の動悸に重なるように銀の言葉が耳に届く。
「先ほどの答えですが……神子様の龍神のなさることを疑う気持ちはございませんので、神子様の世界での生活には不安を感じてはおりません。私は、神子様がいらっしゃる場所であれば何処であっても幸福なのです」
「…………そ、そう」
耳にこそばゆい。
けれどももっともっと言って欲しい。
銀の、自分への愛情を感じさせる言葉を。
「ですが、それゆえに不安なことが一つだけ……」
「え?」
顔を上げると枝から解き終えた一筋を今度は自らの指に絡め、どこか狂おしそうに心情を吐露する銀と目が合った。
「譲殿や将臣殿のお話では、私は今のように常に神子様の身辺に侍ることは不可能だとのこと。なにが不安かと言えば、それのみが気がかりです」
貴女は魅力的な方だから、と銀は指に絡めた髪にそっと唇を寄せた。
「私は貴女が思うよりもずっと狭量な男です。このように神子様の御髪を絡めとる枝にさえ嫉妬してしまうのですから……」
「…………」
恋人の仕種も台詞も何もかもが望美から言葉を奪う。
「どうか、神子様。御身のお傍にいられないときも、心だけは私を誰より近く添わせてくださるとお約束いただけますか?」
蜜のように甘く滴る懇願はどこまでも真剣で。
望美は熱くなる一方の頬を持て余しながら、首を縦に振ることでけで精一杯だった。
end
乙女ゲージャンルから何か一つ……と思って銀×望美を。
銀……難しかったです(苦笑)。
でも知盛やリズ先生はもっと難しくて一度挫折済みですよ。
一応時間軸はED直前。
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