作品
キスにまつわる20の御題 : OTOME&OTHER SIDE
4.泣き顔 (P3)
いつでも気丈だった背中が、頼りなく悄然としている。
無理もない。
彼の肩に世界の命運が預けられたと言っても過言ではないのだ。
この世に生れ落ちて17年。
たったそれだけの歳月しか生きていない彼には重過ぎる選択に違いない。
自分でも背負いきれない……真田はそう思った。
見守る視線に気付いたのか、彼がこちらを向く。
真田を見とめた瞳が怯えたように揺れ……その眦からぽろりと一筋涙が伝い落ちた。
「……どうして俺だったんでしょう」
途方に暮れたように呟かれた言葉が、胸に痛くて。
零れ落ちた涙があまりにも綺麗で。
運命に立ち竦む彼を慰め、支えたいと思う反面、いつまでも見ていたいと思ってしまったことを誤魔化すように、真田は彼の目をてのひらで覆いそっと唇を寄せた。
※
真田主です。
本編中クライマックス間近。
真田は黒いんだかヘタレなんだかいまいちつかめません(笑)。
5.冷たい手を暖める (サモン4)
『ギアンの手は優しいよ』
そう言ってフェアが笑う。
数多の命を奪い、とてもではないが口に出せぬような行いもしてきた罪に濡れたこの手を。
まるで血が通っていないかのように冷たいこの手を。
『私は大好きだよ』
はにかみながら、宝物のように指先にくちづけられて。
フェアの唇から移されたぬくもりに、眩暈がした。
※
ギアン×フェア。ギアンED後。
若フェアと同じくらい萌えてます。
6.お礼 (サモン4)
「ありがとう、フェア」
コーラルはそう言って、感謝のキスをした。
頬ではなく…………唇に。
微笑ましい母子のコミュニケーション、ではすまない場所だ。
案の定、フェアはもちろんその場に居合わせた仲間たちは凍り付いている。
(……やっぱり驚かせちゃったかな……)
でもコーラルは頬ではなくて唇にしたかった。
大好きなお母さんは、いつしか大好きな一人の女の子になっていたから。
※
コーラル×フェア。コーラルED後。
こうなって欲しいなーという希望を込めて。
7.ごめんなさい。(サモン4)
セイロンは自分の手首にそっと唇を寄せた。
先ほどまで、フェアに掴まれていた場所だ。
買出しに出たはいいが、慣れないことも手伝って目的のもの以外にも興味を示す自分に焦れた彼女が、とうとう実力行使に出たのである。
手首を掴んで、ぐいぐいと自分を引っ張った愛しい少女。
セイロンは彼女を憎からず想い、フェアもまたセイロンに仲間意識以上の好意を寄せてくれている。
それでも互いに踏み出さないのは、いつか来る別れのときを予感しているから。
属する世界が異なる以上。
それぞれの立場がある以上。
再びの別離は確定している未来だ。
だから。
(……そなたの想いを気付かぬ振りをする、我を許せ……)
セイロンの手首を握った手のひらは、熱いわけでもないのに汗ばんでいた。
見下ろした耳が、仄かに赤らんでもいた。
そのわけを嬉しく思いながらも。
こうして彼女のいない場所で、彼女の触れた場所にくちづける……それが己の精一杯なのだと、龍人の青年は自嘲の笑みを唇の端に上らせる。
※
セイロン×フェア。セイロンED後。
若フェアは悲恋モードもいけると思います。
8.我慢できない (コルダ)
どうだったかな?
演奏を終えた彼女が、そう言いたげに首を傾げた。
それに対する月森の返答は、抱擁とくちづけ。
甘く恋を歌う音色を前にして、我慢なんてとてもできなかったのだ。
※
月森×香穂子。
『2』発売決定記念も兼ねてました。
9.眼鏡を外す (サモン4)
「ねえ、ギアン、眼鏡取ってもいい?」
夜の営業を終えて、誰もいない食堂での一休み。
食事目当てのお客はもちろん、泊り客たちもそれぞれに部屋に引き上げていき、手伝いをしてくれているブロンクス姉弟も自宅に帰った正真正銘の二人きりの時間にそう言い出したのは、ささやかな悪戯心だ。
フェアが煎れたお茶を美味そうに飲んでいたギアンは、唐突な提案にも快く頷いてくれた。
「構わないよ」
その穏やかな声が、とても好きだと思う。
許されてフェアが彼の傍らに移動し手を伸ばすと、ギアンは条件反射みたいに目を閉じた。
それがまるで子供みたいで可愛い。
彼がこれまでにしてきたことは、決して許されることではないこともあるだろうけれど、ギアンという青年はフェアにとってとてもとても大切な人だ。
罪は罪。
それはギアンが背負っていかなければいけないことだけれど、彼には誰よりも癒される権利もあるはず。
自分にその手伝いができればいいと、フェアは願う。
眼鏡を外して、あらわになった瞼。
記憶の中で母がそうしてくれたみたいに、愛しさを込めて唇を一瞬だけ押し付けて離れる。
「っ」
驚いて目を開けた彼に、至近距離から微笑みかけると、ギアンはまるで泣き笑いみたいな表情を浮かべてフェアの肩に額を押し当てた。
※
ギアン×フェア。ギアンED後。
いや、マジで、成田ボイスは犯罪ですよ、いろいろと(笑)。
どなたかのご意見で『サモン4』のキャストメンツで、乙女ゲーが一本作れるっていうのには、納得。
12.「これでよければ。」(P3)
「先輩は今、何か欲しいものはありますか?」
そう言った後輩に真田はふと悪戯心を起こした。
「そうだな……これ、とか……」
指の腹で唇を押さえる。
涼夜はきょとんとした顔になり、次いで頬を紅くした。
普段どちらかと言うとクールな彼のそんな表情は可愛くて、貴重で、それだけで満足したのだけれど……
「こ、これでよければ……」
などと、視線を彷徨わせながら言うものだから。
引っ込みのつかなくなった真田は、付き合い始めて間もない恋人を前に立ち尽くした。
※
真田主。
ほのぼの初々しく。
14.寂しいの (DDS3)
あの日、世界が死んで、それでも生き残っていた『人間』と呼ばれる存在はどこにもいなくなってしまった。
教師であり導き手でもあった女性は自らの神にも見放されて光の中に消えた。
偶然から知り合った事件記者はマガツヒに溶けていった。
受胎の発端を作った男と、友人二人は新たな世界の創造主となるため、神と同化した。
そして自身は、あの日悪魔となった。
人間が誰一人いなくなった荒野に、カグヅチの光を浴びながら奏は立ち尽くす。
悪魔と人間の残滓と『かつて人間だったもの』しかいない世界。
あの光に辿り着いたら、世界を元通りにできるのだろうか。
悪魔に成り果てたはずの身体。
それでも心は寂しさに軋む。
人間の心を捨てきれないから、心が軋む。
心臓があったはずの場所を思わず押さえた手をそっと取る者がいた。
「……クー・フーリン」
奏の忠実な騎士。
悪魔、と呼ばれる存在なのに、白い甲冑を身にまとっている以外はまったく人間に見える。
全身に刺青を這わせ、項から角を生やした自分などよりもずっと。
純白の騎士は、その場に跪き、恭しく手の甲に唇を押し当てた。
「貴女は貴女の望みのままにお進みなさい。私はどこまでも共に参ります」
真摯な言葉は、より胸を軋ませたけれど……この世界でも決して孤独ではなかったことを思い出すことはできた。
※
クー・フーリン主。
クーは、異形の多い悪魔の中で、格好を覗いたら人間に見える数少ない悪魔だと思う。まあ、顔は人間離れした美形ですけども。
19.告白した (サモン4)
二度と会えないだろうと思っていた想い人が、再び宿屋にふらりと姿を現したものだから、フェアは当然驚いた。
互いに憎からず想っていることは感じていたけれど、どうしても踏み込めなかったのはいずれ来る別れがあることを知っていたから。
だから、彼がこの宿を出て行ったとき、もう二度と会えないのだとフェアは覚悟していたのだ。
それは年若い彼女にとっては、悲愴なほどの覚悟で……今でも、告げることのできなかった想いを胸に燻らせているほど焦がれていた青年が、当たり前みたいに自分の目の前に立つものだから、喜びよりも驚きのほうが大きくて頭が回らない。
「セイ、ロン?」
「ああ、そうだとも」
「私、夢、見てるの?」
「あっはっはっは……店主殿は起きながら夢を見るのか、器用だな」
変らない物言い。
変らない態度。
「我がここにいるのは、現実よ。龍姫様は、無事、鬼妖界に送り届けた。役目を果たした褒美に、今しばらくリインバウムに滞在できる猶予をもらったのだよ」
涼しく笑いながら、セイロンは広げていた扇をパチリと閉じる。
「イスルギ様に置かれては、何もかもお見通しと言うわけだ」
「……はあ」
「よって、また再びここに厄介になりたいのだが、良いかな?」
「それは……いいけど……」
まだ夢を見てるみたいだ。
現実感が伴わない。
だがそれもこの瞬間までのこと。
「そうか、ありがとう……フェア」
「な、なに?」
セイロンの目が、意味ありげに細められる。
「末永くよろしく頼むぞ。我はもはや遠慮はせぬからな」
扇でくいっと顎を持ち上げられたかと思ったら……
「〇★×●※ーーーーーーっ」
耳元にそっと愛を囁かれ、それを理解する前にくちづけられて、フェアは声にならない悲鳴を上げる羽目になったのだった。
※
セイロン×フェア。
今度はラブコメテイストで。何気に、プロポーズ?
21.ばいばい。(ライドウ)
夢の中でしか逢瀬を重ねられない相手だ。
しかも触れ合うことはできない。
言葉を交わすことも。
彼と自分の間には、目に見えない透明な壁が横たわっている。
これは二人を隔てる世界の壁。本来ならば交じり合うことのない者同士が出会ってしまった……互いに異なる世界に属していることの証。
珠璃は彼に触れるみたいに、その壁に指を這わせる。
学生帽を被り、黒い外套を纏った書生風の若い男。その端整な面立ちに、痛々しい十字の傷痕がある。
異なる世界の、己と同じ立場に在る者。
彼は厳しく冷たい眼差しで自分を見ている。
それでもいい。
夢でも、彼自身はこの逢瀬を望んでいなくても。
珠璃は彼に会えれば、ただそれだけでいいのだ。
この心が『恋』を知るなど。
女である自身を自覚するなど、彼に出逢うまで知らなかった。
『ああ、今宵の逢瀬も、これでお別れのようです……十四代目』
目覚めのときが近付いている。
目覚めれば、珠璃自身も十四代目・葛葉ライドウとして存在しなければならない。
女でもなく、人でもなく、帝都を守るデビルサマナーとして。
それが辛いわけではない。
でも。
この逢瀬が終わるときは、いつも身を切られるように切ないのだ。
その切なさを噛み締めて、珠璃は次第に覚醒していく意識に逆らうことなく、別れの際に二人を隔てる世界の壁へとくちづけた。
※
雷ライで。
そっけない異世界十四代目と、夢の中の逢瀬でだけ少女に戻る十四代目。
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