作品
信頼し合う二人へ10題<R18>
1,君が隣にいるキセキ(シキアキED1)
アキラの視界の中で、僅かに先を行く男のコートの裾が翻った。
その光景に軽い既視感を覚えて胸が詰まる。
初めて男の姿を目の当たりにしたときのことを思い出した。
圧倒的で絶対的な存在感。
揺るぎないその姿に、畏れと憧れが混在する不思議な感情を覚えた。
そのことを懐かしく思い出す。
「なにをしている、さっさと来い」
こちらを振り向いて促す口調はあいも変わらず偉そうで、紅い瞳には呆れが滲んでいる。
彼に再び宿った意思と感情。
それはひょっとしたら奇跡なのかもしれないとすら考え、そんな自分がおかしいやら気味悪いやらで思わず笑った。
「アキラ?」
「今行く!」
奇跡だろうが必然だろうがそんなことはどうでもいい。
彼がそこにいてくれればそれで。
だから。
「待てよ、シキ」
先を行く彼と隣合うため、アキラは足を踏み出した。
※
初対面のときのあの強烈な印象は多分ずっとアキラの胸に焼き付いてる。
長い喪失を味わっただけ余計に。
2,何度言えば解るんだ?(シキアキED3)
「……悪い子だ。イタズラが過ぎたな」
鮮血のような紅い瞳に浮かぶ残酷な光にアキラの背中をゾクゾクと期待が駆け上がる。
ヴィスキオという組織において幹部ばかりを誘惑した。
あっさりとアキラの誘惑に屈した彼らはすでにシキの手で粛正されている。
「おまえは何度言い聞かせてもイタズラを止めないな。困った奴だ」
「だって、シキが悪いんだ。俺のこと放っとくから……それにあいつ等、簡単に堕ちてきたんだよ。そんな奴らがあんたを支えられるはずないじゃないか」
それを思い知らせてやったんだ……と唇を尖らせると男はうっすらと目を細めた。
その冷たい表情に身体の奥が甘く疼く。
「それはそれ、だろう。俺が言っているのは誰にでも足を開く節操のなさを咎めているんだがな」
「……妬いたの?」
男は答えない。
かわりに乱暴に押し倒された。
「飼い主以外にも尻尾を振る悪い子にはお仕置きだ」
氷点下の囁きは蜜のように甘く……アキラはうっそりと微笑んで、シキの肩に手を回した。
※
お互い試しあって、依存しあって抜け出せない泥沼が、多分二人の幸福。
3,隠したってわかるよ(ライコノ)
コノエの機嫌が悪い。
顔は強張らせたまま、耳はぎゅっとライの方を向き、尾がせわしなく動いていた。
手は黙々とライの手首に薬草をペースト状にしたものを塗り込んだ布を当て、不器用に包帯を巻く。
剣の鍛錬中に手首を軽く捻った。
ライには珍しい失態だったが、不自由はなかったので黙っていたら……コノエが拗ねて、怒ったというわけだ。
俺はそんなに頼りないのか、小さな怪我が命取りになるとか言ってたくせに治療もしないなんて何事だ等々……さっきまでぶつぶつ言っていた。
それはもうライに口を挟ませない勢いで。
一頻り文句を言った後は沈黙。
こうなるとライもどう切り出していいのかわからない。
コノエとつがいになるまで他者との接触は最低限で生きてきたツケが、こうして回ってくる。
結果ライも自身への苛立ちに尾を揺らす頃。
「隠そうとしたって無駄なんだからな。俺だって、アンタのことは他の奴よりずっとずっと知ってるんだから」
ムスっとしたままそう言ったコノエに、ライは一瞬呆気に取られ……次いで小さな笑みが零れ落ちる。
言葉にならない喜びとともに。
だから。
まだむくれているコノエを抱き寄せ、その耳にすまん、と素直に吹き込んだ。
※
亭主関白とカカア天下がほどよい塩梅で混在してるのがライコノだと思う。
4,慰めたりしない(ライコノ)
同情されるのは嫌いだ。
慰められても、自己嫌悪や苛立ちが強くなる一方だった。
でも。
なにも言わず、ただ隣に寄り添う。
ふさふさの白い尾が伺うように触れてくる。
言葉や分かりやすい態度での慰めはしない。
そんな不器用な連れ合いの慰めだけは、素直に受け入れられる。
胸の奥が温かくなる。
コノエはライの肩にそっと頭をもたせかけて、滲む涙を瞼の奥に隠した。
※
尻尾はリビカの重要コミュニケーションツール。
5,約束などなくとも(シキアキED2)
戦場を駆ける。
周囲から突き刺さる殺気、濃厚な死の匂い、漲っていく高揚感。
そして、背後に遅れることなく着いてくる馴染んだ気配。
シキは口元に笑みを刷く。
忠実な右腕にして、情人……アキラという存在は、シキをある意味一変させたとも言える。
自分が誰かを側近くに侍らせるなど、アキラを手に入れるまでは想像したこともなかった。
所有することを宣言する以外、何か特別な言葉を告げ合ったわけではない。
約束を交わしたわけでもない。
けれども、信じられる。
背中を預けることも、良しとする。
(この俺が、だ)
ニコルと非ニコル、対の存在であることに歓びさえ覚える。
自嘲を感じないわけではない。
だが、受け入れることができる。
(アキラだけは、俺を裏切ることはない)
その感慨はただひたすらにシキをたかぶらせて。
躍り出た敵が最期に見たのは、銀の閃光と美しくぞっとするほど凄艶な笑みを浮かべた鬼の顔。
※
総帥は美人秘書にメロメロだと良い。
いや、むしろそれが世界の大前提で(苦笑)
6,ある意味、似ている(ライコノ)
「またライさんと喧嘩したの?」
久しぶりに訪れた藍閃の街。
顔を出した親友のところで、開口一番がそれだった。
「別に喧嘩なんかしてない。それにまたってなんだよ」
実は図星だったのだが、認めるのは業腹なのでコノエはそう返した。
するとトキノはクスクス笑って。
「えー、だって見るからに落ち込んでるし、コノエがそんな顔してるときはライさんと喧嘩してるときだし……っていうか、ホント飽きないよね、コノエたち。よくそんなに喧嘩するタネがあるって感心するよ。そうそうこないだバルドさんに聞いたんだけど、二つ杖の言葉に『喧嘩するほど仲が良い』って言うのがあってさ、真っ先にコノエとライさんのこと思い出したんだよね」
歳はそう変わらないはずなのに、商い猫ということもあってか見かけによらず強かで大人びた親友は、コノエの苛立ちをそんな風に軽くいなす。
「…………」
「バルドさんとはコノエたちのことよく話すけど、二人は似たもの同士だって言うのが俺たちの共通した見解」
「…………なんだよ、それ」
別に似ていないと思う。
見かけはもちろん、技術や経験、性格も似ているところはない。
強いて似いてる点があるとすれば、幼くして独りになった境遇だけだと思うのだが。
「似てるよ。頑固で意地っ張りで謝り下手。仲直りがしたいのにできなくて、イライラうじうじしちゃうところ。バルドさんも言ってたよ。ライさんってコノエと喧嘩すると、すごく分かりやすいって」
「……トキノ」
容赦ない評価に、我知らず耳がしょんぼりと垂れる。
「責めてるわけじゃないよ。簡単に素直になれたら、苦労しないよね。コノエも、ライさんも」
「…………うん」
観念して頷いたコノエに、トキノが優しく微笑む。
「とりあえず、甘いものでも食べて英気を養ってから仲直りにチャレンジしなよ。ちょうど、クィムの新しいお菓子が入ったからさ」
ぽんぽんと肩を叩かれて、コノエは親友にますます頭が上がらなくなったのを実感したのだった。
※
トキノの立ち位置はつくづく美味しいなぁ、と思うわけです。
7,俺の過去を知っているから性質が悪い(ライコノ)
「なーにを間違っちまったかな」
「…………」
「昔は素直でちゃんと謝ることができる子だったのに……いつからこんなにスレちまったんだか……営業妨害も甚だしいぞ、ライ」
剣呑な空気を垂れ流し、イライラと尾を揺らしているかつての養い子にバルドは実に嫌みったらしくそう言ったのだが。
「元々そんなに繁盛してもいないだろうが」
帰ってきたのはさらに辛辣な嫌味だった。
本当にいつの間にこんな子になってしまったのか。
あのまま育つのが良かったとはとても言えない環境だったことは承知しているが、それでも素直で可愛かった頃のライを知っているだけにあのころの彼が欠片でも残っていればこんなに何度も何度も拗れることはないだろうにと、ほとほと思う。
(ま、それでもこうして俺の前でこんな姿を見せるようになってくれただけ、蟠りが解けたんだと思えるから嬉しくもあるんだがな)
全く飽きもせずによく喧嘩することだと、ライと彼の連れ合いを思う。
やれやれと肩を竦めた。
「仕方ないからとっておきの酒を出してやる。景気付けに一杯かっくらって、さっさとコノエを迎えに行ってこい。どうせトキノんとこに行ってるんだろうからな」
「…………」
反論してこないのは、いろいろ思うところがあるからだろう。
用はきっかけが欲しいだけなのだ、ライは。
昔から、そう言うところがあった。
すっかり変わってしまった養い子の、そうした変わらぬ面が嬉しくてほろ苦い。
「ホレ。二つ杖の言葉にな、夫婦喧嘩はイヌも食わないってのがある……早く仲直りしろよ」
「余計な世話だ」
苦虫を噛み潰したような表情でライはそう言うと、バルドが差し出した酒を一気に煽った。
※
6のライバージョン。
バルドは世話焼きのお舅さん希望(笑)。
8,そう言うところが気に食わないんだ(ライコノ)
「おまえというやつは……ほとほと呆れてものも言えんな。本当に猫か?物心着かない子猫ならいざ知らず、いったいいくつなんだおまえは。そろそろ立派に成猫と言っていい年頃だろうが。しかも初めて訪れた場所じゃあるまいし、なぜ何度も迷うことができるのかさっぱり理解できんぞ、まったく。もはやある種の才能だろう。これっぽっちも活かせるとは思えん類の才能だがな。ひょっとして賛牙としての才と比例しているのか……」
ものも言えないと言ったくせに。
延々と続く説教と愚痴に、コノエの耳と尻尾はしょんぼりする。
確かにもう何度も訪れた藍閃の街でまたしても道に迷ってしまった自分が悪い。
周囲に気を取られている隙にライの姿を見失い、探し回った結果、より状況を悪化させたという最悪のパターンだ。
バルドに言えば大笑いするだろうし、トキノに話してもライに同情した上で苦笑するだろう。
何しろはぐれたのは昼過ぎで、二人が再会したのは陽の月がもうすぐで沈む頃だったのだから。
せめてはぐれた場所で動かなければ良かったのかもしれないが、何度経験してもそれを学習しないコノエにライが苛立つのもわかる。
でも。
(……説教が長い。長過ぎる……俺が悪かったのは認めるけどさ。こう上から目線で延々と説教されると、悪かったって言う気持ちが失せていくんだよな)
ライはかなり几帳面な性格なので、あっさり流すと言うことができない性質だった。
対してコノエはよく言えば大らか、悪く言えば大ざっぱな一面があるので、連れ合いの正反対の一面が癇に障ることがある。
それはライの方でも同様だろうが。
けれど。
「心配させるな、馬鹿猫」
そう締めくくられ、抱き寄せられると不満もなにもかも霧散してしまうから不思議だ。
「うん、ごめん」
肩に額を押しつけ喉を鳴らす。
こうして纏まるのが二匹のいつもの顛末。
※
説教の長さは愛の証(笑)。
9,肩を借りる(シキアキED2)
身体が熱い。
ふわふわする。
意識もぼんやりとして、はっきりとしない。
「……まさか、おまえがここまで酒に弱いとはな」
「申し訳……ありません」
微妙に呂律が回らない謝罪に、主が小さく笑ったようだった。
「いや、これほど共に在ってもまだ新しい発見があるのかと愉快な気分だ」
某国主催のレセプションに主と共に参加したアキラだったが、振る舞われた酒が想像以上に強くて一杯あけたら、この有様だ。
元々あまり酒は嗜まない性質で、たまにシキに付き合い舐める程度。
本当のところ自分が酒に強いか弱いのかはわからなかった。
アキラの様子に気づいたシキは、早々にレセプション会場を辞して、滞在先であるホテルに帰ることにした。
その車中。
「眠いのか?」
「だ……大丈夫、です。 おきに、なさらず……」
親衛隊の隊長であるアキラは、シキの護衛(実際にはシキに護衛など必要なく、体面上のことだが)である自分がこんな体たらくでは誰より大切な主の名誉に関わる。
そう思って必死になるけれど、心地よい酩酊はこの上ない誘惑となってアキラを眠りに誘うのだ。
「無理をするな」
ぐいっと引き寄せられて、主の肩に落ち着かされた。
素面であれば、けっしてそのような隙は見せないのに、今のアキラはどれほど意識しようと努めても無防備だ。
「で、すが……」
「俺がいい、と言っている。眠れ、アキラ」
低く囁かれた声は、甘さなど欠片もないのに優しくて。
アキラはとうとう睡魔の手招きに応じ、幸福な気持ちで意識を手放した。
※
味を占めた総帥は、美人秘書を酔わせることを覚えた!
10,結局こうなるんだ…(ライコノ)
初めは毛繕い。
何の意図もない、ただ労るために施される親愛の表現。
そのはずなのに。
「……やっ……ら、い……」
いつしかコノエの唇からは甘い声が零れ始める。
二匹の日常茶飯事に、夜は更けていった。
※
バカップルつがい。
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