庭球小説

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5 花の降る日

 三月の晴れた日。
 青春学園高等部の卒業式が行われた。
 堅苦しい式を終えた後は、友人たちが集い別れを惜しんでいる。
「手塚、大学行かないんだもん、びっくりしたにゃー」
「かといって就職でもないし……ひょっとしてとうとう留学か?」
 乾が興味津々の態で聞いてくるのに、手塚は苦笑を浮かべる。
「まぁ、そんなもんだ」
「なんだい、その思わせぶりな言い方」
 君にしては珍しい、という不二に、肩を竦めて見せた。
 不二の隣でにこにこしている友人に、手塚は視線を向ける。
「河村は、どこかに修行に行くらしいな」
「うん、親父の知り合いのところなんだけどね」
「頑張れよ」
「ありがとう、手塚」
 河村を見つめる不二の眼差しは少し寂しそうだったけれど、かつてのように胸を突くようなそれではなく、甘さを孕んでいて……手塚は、安堵を覚えた。
「あれ?」
「どしたにゃ、大石」
「校門のところ……子供が待ってる。卒業生の兄弟かな?」
「あっ、ほんとだ。んー小学生?」
「中学生かもしれないよ」
「ひょっとして中等部を下見に来て、場所間違えたんじゃないか?」
「僕には、誰かを待ってるように見えるけど……って、手塚、君の知り合いなの?」
 見上げた先で手を振っている彼に応える自分を見て、不二が驚いたように言う。
 小さな身体。
 勝気そうな顔立ちと表情。
 ここにいる誰もが忘れてしまった……けれど覚えている。
 彼も自分も。
 みんなで過ごした、日々のことを。
「あぁ、悪いが迎えが来たんで、俺はもう行くぞ」
「迎えって、あの子?」
「そうだ」
 頷きながら、足はすでに彼の元へと駆け出している。
「じゃあな!」
 友人たちに手を振って別れを告げる。
 彼らは知らないが、永遠の別れを。
 驚いていたようだった友人たちは、やれやれとでも言いたげに思い思いに応えてくれた。
 両手を大きく振っている菊丸。
 見守っている大石。
 卒業証書の入った筒を軽く上げる乾。
 片手をひらひらと振って笑っている不二。
 目が合った瞬間ににっこりと笑う河村。
 いつだって彼らは、手塚にとって大事な友人でありつづけるだろう。
 彼らに背を向け、約束を果たすために自分を待っているリョーマのもとに向かう。
 色の薄い瞳が問いかける。
 本当にいいのかと。
 手塚の心に迷いはない。
 だから。
「リョーマ!」
 彼の名を呼んで、腕を伸ばし……三年ぶりに愛しい身体を腕に抱き締めた。


 まだ蕾が膨らんだばかりだった桜の花。
 それが一斉にぽっと開き、花吹雪が舞う。
 そうして一陣の風が吹き抜けた後には、二人のことを覚えているものは誰もいない。

                                  
END


あとがき
このお話は、2002年の冬コミで発行したものです。テニプリで、初めてコミケスペースをいただけたときのものなのでいろいろ感慨深い。
この『誰がために雪は降る』は初期の作品の中でも、私としても結構気に入っているお話ですし、今でも好きと言ってくださる方がいるお話でもあります。
それまでは、比較的ラブラブなバカップルしか書いてこなかったのですが、このお話は『受(ヒロインでも可)キャラに切ない想いをさせるの大好き』という私の趣味が思いきり滲み出ているものとなりました(苦笑)。
お話のタイトルは崎谷健次郎氏の『誰のために雪は降る』という曲から。プロット段階でCDがどうしても見つからず『誰がために~』と、勘違いしてしまったものをそのまま使用しました。そっちの方が雰囲気あってると思ったし。
切なくていい曲なので、機会のある方はぜひ聞いてみてくださいね。
古い上に、拙い話ではあるのですが、よろしければ感想を聞かせていただけると幸いなのです。

  • 2011/05/31 (火) 15:15

タグ:[誰がために雪は降る・完結済]

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