庭球小説

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外伝 天上華

 秋の空は、一際高い。
 地上から、遥か天空にある宮城から見上げてもそう思う。
 リョーマは、一息ついて空を仰いだ。
 腕に抱えた籠には、柘榴が収穫されている。
 内宮の花園や庭園には、果木も多く、季節が巡ってくると実った果実をもいで食卓に供するのだ。
 それは、リョーマが天領に召喚されてから変わらない習慣。
 鋏と籠を片手に、慣れた足取りで。
「これくらいでいっか」
 紅玉のような粒が覗く籠の中の柘榴の果実を眺めてリョーマは、住まいである水晶宮への帰途へ付く。
 その途中。
 ざわり、と風が吹いて。
 見えないその軌跡を追うように、リョーマが視線を向けた先。
 紅い波が、視界を過ぎった。
 見過ごすことができず、足を向ける。
 ぱちぱちと爆ぜる花火にも似た、紅い花。
 もう、時折しか思い出すことのなくなった故郷では、確か彼岸花と言った。
 彼岸とは、あちら側。
 三途の川の向こう。
 亡くなった人たちが住む世界。
 だから、だろうか。
 僧侶だった祖父にこの花は、死者を悼み、懐かしむ花なのだと教えられた。
『へぇ、そうなんだ』
『天領では、天上華って言うにゃ』
『別名は想思華。花が咲いた後に、葉が伸びるからそう呼ばれてる。葉は花を想い、花は葉を想う、ってね』
 遠い日の会話を思い出し、そっと瞑目する。
 あれは、いつのことだったろう。
 懐かしく、切ない思い出。
 けれど、哀しくはない。
 寂しくはない。
 今の自分を形作る全てが、懐かしい人たちと過ごしてきた日々の、その証だから。
 それに。
 絆は薄れてはいない。
脈々と続く『血』に紛れて、感じること、信じることができる。
(……それは、みんなが、俺の中にいるからだよね)
紅い波の向こうに見える面影に、リョーマは心の内で語りかけた。
小さく微笑みかけて、踵を返すと……
庭園の入り口に、愛しい人の姿を見つける。
この世界に召喚されたとき、自分はまだ本当に子供だった。
今は……あのころよりは、彼と目線の位置が近くなり……少しは大人になったと思う。
永い永い時を、これからもきっと、ささやかな郷愁を伴いながら生きていくことだろう。
二人の視線が合って、リョーマは軽く手を振ると愛しい伴侶へと駆け寄る。
懐かしさと切なさは消えたりしない。
けれど。
哀しくはない。
寂しくはない。
存在と思い出を共有する、ただ一人の人がいる。
そして、もう会うことはできないけれど、胸の奥いつまでも、みんなが燈してくれた灯りは消えはしないのだから。


終幕

※『天上華』=『彼岸花』

  • 2012/01/20 (金) 05:08

タグ:[比翼連理]

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