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02,指摘されて初めて気付く、視線の先(三国恋戦記*公瑾×花)


 弾けるような笑い声が風に乗ってきたのが耳に届いた公瑾は、回廊で足を止め視線を巡らせた。
 声の源はすぐにわかる。
 東屋で花が尚香や二喬姉妹と茶を飲んでいるのが見て取れた。何を話しているのかまではわからないが、菓子を摘みながら楽しげに談笑している。
 京城に連れてきてすぐに、花は彼女たちと打ち解けた。
 その表情はどこにでもいるあの年頃の少女のようで、伏龍の弟子として公瑾に警戒心を抱かせるような人間にはとても見えない。
 だが。
(あれも擬態なのかも知れない。普通の少女を装って諜報活動をしているのかも……)
 そんな器用な人間ではないだろうと言うことはわかっていながら、自分だけは彼女を疑っていなくてはならないと強迫観念に衝き動かされるようにそう思う。
 普通の少女のようにしか見えなくとも、公瑾の科した無理難題を解き、思いもしなかった方法で赤壁の戦いの戦局を左右する策を弄したのは彼女なのだから。
 我知らず険しくなる表情。
 心を許してはならないと、頭の中で警鐘が鳴り響くのを聞いた。
 と、そこへ。
「おや、都督、花殿がどうかしましたかな?」
 子敬がやってきて公瑾の張りつめた心を弛緩させるようなのんびりとした声でそう問いかけてきた。
 公瑾はわざとらしく咳払いをする。
「……何故、花殿と限定されるのですか?あちらには尚香様も二喬姉妹もいらっしゃる。全く恥ずかしげもなく大口を開けて笑うなど年頃の婦女子としての慎みが足りない」
 しかつめらしい顔で言ってのけると、子敬は軽く笑った。
「まあ、都督がそう仰るのでしたらそう言うことにしておきましょうかな」
 真意はそうではないだろとしたり顔で含み笑うのは気に入らなかったが、公瑾は無視して再び回廊を歩き始める。
 他者の目にも明らかなほど花を見ていたなど、指摘されるまでそれに気付かないなど……そう、きっと彼女を警戒しているからだと言い聞かせて、公瑾はその場から立ち去った。



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追憶の苑

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